孤思庵の仏像ブログ

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Mさんから 投稿 「芸大博士審査展・宝菩提院菩薩半跏像について」

Mさんから 「芸大博士審査展・宝菩提院菩薩半跏像について」の投稿がありました。 

21日午後に東京芸術大学大学院美術研究科博士審査展に行ってきました。
お目当ては宝菩提院菩薩半跏像の模刻制作を通した新知見の展示です。
思っていた通りなかなか素晴らしい研究内容でした。模刻とパネル展示を見た後、制作及び研究者の中村恒克氏にいろいろ質問し、疑問点に答えてもらいました。22日の報告会には行かれませんが、これで報告内容はほぼ理解できました。
 
要点を書くと
1)木心を像の前面に外して木取りをしているため、用材として直径1.3m以上の榧の木を使っている。模刻ではそこまで大きい榧材が得られなかったので、一部木を寄せている。
2)この像は姿勢(上半身のひねりなど)から三尊像の右脇侍が残ったものと思われる。実際の木取りは材を半割し、両脇侍それぞれの像が木心に向かって向かい合う形に木取りしたものである。中尊はこの脇侍2体分の材の上か下の材を使えば作れる。
3)右手上膊の半ばで矧いでいるが、この位置では右足上部とのつながり部分の隙間がとても彫りづらいことになる。もう少し肘側で上膊を矧ぎつければよいのに、そうやっていない。これは石彫の技法(腕のように遊離している部分が折れないように体に付けて彫る)の影響であり、木彫の技法に慣れていないことの現れである。(彫刻の技術レベルは非常に高いが、木彫として進歩した段階に至っていないということ。)これも唐の様式の影響の一つと考えられる。また、最近この像の制作年代を8世紀末頃に遡らせて考えることが主流となっているが、この木彫技法のことは法華寺十一面観音のような(木彫技法がこなれてきた)9世紀前半~半ば頃の像よりこの像の方が古いとする考えとも一致する。
4)衣の下に隠された蓮弁の先端部が上の段とその下の段で上下差が大きい。天平から平安初期の像では通例蓮弁の段差は距離が短い。これも唐の様式の影響。
5)上から見た平面で(コンピューターの画面上で)蓮弁の先端をつないでいくと楕円のような形になり、蓮肉としての円形にならない。これは上記半割の
材の形の制約からきているが、外から見てもそのようなことは感じさせない。
6)目には何か嵌め込んでいるが、左右で色が若干違うので向かって左側の目は後補か。蛍光X線分析ではガラスや黒曜石のような鉱物質ではなく、有機物が検出されたので、木か漆と思われる。
7)パネル展示していなくて22日の報告会に述べる追加項目として、秋篠寺十一面観音、璉城寺聖観音、道明寺十一面観音の3体がこの像の影響で作られた、この像より少し降る頃の作と考えられる。(作風や技法が近い)
8)模造の背面台座蓮肉部に干割れがあるが、これは実物を模したのではなく、模造で自然に割れたもの。木心は外しているが内刳りしていないため。実物ではこの部分に左右2ヶ所の光背取り付け用の縦の溝があるが、左右で深さも違い、この溝は当初のものかどうか不明。今回の模刻では再現しなかった。
 
その他として、3年前に制作した道明寺十一面観音の模刻も展示してあり、私は昔の常識で道明寺十一面観音は9世紀末から10世紀に入っての頃の作と思っていましたが、最近は8世紀末から9世紀初め頃と考えられているようです。中村氏にこの辺の事情をお聞きしたところ、檀像系の作品では製作年代を以前の研究の頃よりも遡らせて9世紀初め頃とすることが多くなっているようです。また、この道明寺像の模刻について、以前テレビ放送された時の記憶で足の間と台座蓮肉部との隙間が狭くて彫りにくかったため、先の長いノミを準備して彫ったということを覚えていたため、最近出た小学館日本美術全集「密教寺院から平等院へ」の皿井舞氏解説で「(道明寺十一面観音の)台座の蓮肉部は本体とは別材製である」という記載について質問したところ、「この解説は古い本の内容から取ったものと思われ、模刻を作った時に蓮肉部と本体とは共木であることを確認している」と言われました。この本の記載は誤りです。
 
以上、長々と書きましたが、今回の展示を見に行って再度実感したのは、実際に彫刻をする人の説は説得力がある、あるいは美術史研究者からは出てこない発想がある、ということです。これは1年ぐらい前の美術史学会東支部の報告会で同じ薮内研究室の報告を聞いた時にも思いました。(東大寺中性院弥勒菩薩高知県雪溪寺毘沙門天の模刻製作を通しての知見発表)この美術史学会の時も水野敬三郎、山本勉、伊東史朗、青木淳などの先生方が来られていましたが、やはりそのへんのことを期待されてのことだと思います。集いのメンバーでまだ行かれていない方は是非展示を見に行かれることをお勧めします。24日までです。(願徳寺宝菩提院菩薩半跏像がお好きなBUNBUNちゃん、是非どうぞ。理解が深まりますよ。)
また、この菩薩半跏像、1体だけでも素晴らしい像と思っていましたが、これが左右2体で、同作の中尊の如来もあったとしたらどれほど素晴らしい像なのか、想像するだけでもワクワクします。
 
なお、22日の報告会の配布資料は前日の時点でまだ印刷していないとのことで、もらえませんでした。報告会に行かれる方、次回の集いでコピーを取らせてください。
 
  
以上、Mさんから の投稿でした。