孤思庵の仏像ブログ

少し深くの 仏像愛好のブログ続けてます、オフ会に集ってます、貴方も如何?

仏像の国宝指定について(Mさん投稿)

Mさんから投稿が在りました。


9/5の仏像の集いで孤思庵さんが最近の国宝指定について話しをされるとのことなので、議論の参考になりそうなことを投稿します。
 
毎日新聞社の「重要文化財」彫刻編は昭和47年から数年かけて発行されましたが、この本では各巻10ページ分のカラー写真が載っています。このカラー写真はその当時国宝には指定されていないもので、価値が高いものを選んで掲載しているようです。この時点で重要文化財に指定されていてその後国宝になったものは現在までに14件あり、そのうち7件が上記カラー写真で紹介されました。(勝常寺薬師三尊、清凉寺棲霞寺阿弥陀三尊、三千院阿弥陀三尊、円成寺大日如来道成寺千手観音、阿倍文殊院文殊五尊、臼杵石仏ホキ第二阿弥陀三尊)一方、カラー写真には採用されなかったが国宝になったものは中尊寺金色堂諸仏、六波羅蜜寺十一面観音、熊野速玉大社神像、東寺弘法大師、願成就院諸仏、醍醐寺虚空蔵菩薩東大寺弥勒仏の7件です。この他に当時はまだ知られていなかったのでこの本には載っていなかった仁和寺薬師如来が国宝になっています。(後述)
彫刻編660件+補遺1件の計61件のカラー写真中7件が国宝に昇格していますが、残りの作品にも将来の国宝指定候補があるのではないかと思っています。例えば後述する京都同聚院不動明王などです。
 
次に週刊朝日百科国宝の美(彫刻 平成22年頃発行)というシリーズに連載記事で「私のイチオシ 未来の国宝」というエッセイが出ています。全巻確認したわけではありませんが、手元にある分では皿井舞氏(仏像の金泥塗りの論文を書いた人)が東大寺弥勒仏を、大阪大学の藤岡穣氏が峯定寺釈迦如来を推していて、東大寺弥勒仏は見事に的中しています。ともに美術史専門家の意見であり、このシリーズを調べると次にどんな作品が国宝になりそうか分かるかもしれません。
 
中央公論美術出版の日本彫刻史基礎資料集成のシリーズに平安時代重要作品編(全5巻)という本があります。銘文はないが文献資料により作製年代が分かるもので平安初期から定朝の時代の前までを取り上げています。東寺講堂諸仏、神護寺薬師・五大虚空蔵、観心寺如意輪観音醍醐寺薬師三尊など既に国宝になっているものが多いのですが、重文指定で国宝でないものもあります。(京都山科安祥寺の五智如来広隆寺講堂の阿弥陀の両脇侍の地蔵・虚空蔵、六波羅蜜寺四天王、禅定寺十一面観音、同聚院不動明王)。これらも美術史的価値という点からは国宝候補と言っていいのですが、芸術作品としては少し物足りないものもあります。なお、この重要作品編については、定朝以降として広隆寺日光・月光・十二神将、大倉集古館普賢菩薩、峯定寺千手観音・不動・毘沙門天などの調査・撮影も済ませたが、事情により中止となったそうです。以上のうち国宝になっていないものは将来の国宝候補かもしれません。
 
仁和寺薬師如来(小さい檀像、円勢・長円作)は国宝指定のスピード出世では和歌山慈尊院弥勒仏に次ぐものでしょう。発見された時期はよく知りませんが、昭和63年に伊東史朗氏が仏教芸術誌上で論文を発表し、翌平成元年に重文指定、そして平成2年に国宝指定となりました。
 
次に国宝指定についてブログの読者が意見を交わした記事です。
慈尊院弥勒仏の発見物語について読者がコメントし、そこで次期国宝候補について話題になっています。同聚院の不動明王については、脚部が後補であることがネックであり、康尚の真作と確証が得られれば国宝指定もあるか、と書かれています。また、京都宇治田原禅定寺の十一面観音、福岡観世音寺の巨像群、奈良長岳寺の阿弥陀三尊などが意見として上げられています。
同聚院の不動明王や禅定寺の十一面観音は私も国宝の候補としていいのではないかと思います。また、長岳寺の阿弥陀三尊なら京都北向山不動院不動明王の方が価値は高いと思います。ほぼ同じ頃の奈良仏師作でともに最初期の玉眼入りの像ですが、長岳寺像は作者不詳で発願者も無名の僧侶、北向山不動院像は康助作で発願者は関白・藤原氏氏長者を歴任した藤原忠実ということで、歴史的価値はかなり差があります。(美術作品としてはどちらの方が出来がいいでしょうか。)
 
自分が仏像に興味を持ち始めた時期に国宝であったか、重文であったかによって、その像に対する考え方、評価は違うという気がします。円成寺大日如来、棲霞寺阿弥陀三尊、三千院阿弥陀三尊などは何故国宝ではないのかと思っていたら国宝になりました。私が興味を持つ少し前に獅子窟寺薬師や慈尊院弥勒仏、浄土寺阿弥陀三尊などは国宝に指定されていたので、これらは国宝として当然という意識でしたが、獅子窟寺薬師が国宝で、棲霞寺阿弥陀三尊や三千院阿弥陀三尊が重文なのはちょっと納得いかない気がしていたものです。最近興味を持ち始めた人は阿倍文殊院文殊五尊や東寺弘法大師は国宝で当然と思っていることでしょう。また、建物は国宝なのに中の仏像は重文というケースもたくさんあります。これは建物の方が残りにくいという事情もあると思いますが、例えば中尊寺金色堂は建物は明治の頃から国宝でしたが、中の諸仏が国宝指定されたのは割と最近です。個々の像は国宝というほどのものではないと思いますが、建物とともに残された仏像群一括としての価値という意味でしょう。
 
重文指定になっていない快慶の作品について、専門家(以前文化庁にもいたことのある人)に理由を聞いたことがあります。それは京都悲田院の宝冠阿弥陀のことですが、重文指定になっていないのは順番待ちではないか、と言われました。つまり同じような時代・作者の品ばかり連続して指定するわけにはいかない、ということのようです。重要文化財・国宝に指定するということは国としてお墨付きを与えるということであり、その「品物」の経済的価値を高めることになるので、指定に関わる委員や文化庁の人は責任があり、慎重になるということでしょう。文化庁の担当官の人も指定理由の表現では慎重な書き方になると言ってました。(これも快慶の高野山執金剛神・深沙大将の指定の時の話です。胎内銘「アン阿弥陀仏」の梵字アンの上部の点がなくて「ア」だったため、快慶作と断定した書き方にはしないで重文に指定したようです。)
 
私が考える将来の国宝指定候補としては
飛鳥・白鳳・奈良時代は特に思い当たるものがありません。(新薬師寺の香薬師が発見されたら国宝か?)。平安時代では禅定寺十一面観音、石山寺本尊如意輪観音(この2件は六波羅蜜寺十一面観音、道成寺千手観音が国宝になったのなら十分資格はあると思います)、同聚院不動明王、峯定寺千手観音、北向山不動院不動明王鎌倉時代では興福寺中金堂四天王(本来の南円堂四天王と判明しているため)、愛知県滝山寺聖観音梵天帝釈天(解体修理して運慶作と確定したら国宝候補)ぐらいです。さて、この内いくつが当たるでしょうか。
 
集いの皆様も9/5には自分のお勧めする国宝候補を考えてきてください。その理由とともに発表したら盛り上がると思います。