孤思庵の仏像ブログ

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Mさんの寄稿文 「奈良市福智院の地蔵菩薩坐像について資料確認」

仏像愛好の集のMさんが寄稿されました。画像を添えて ブログにアップします。」孤思庵

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Mです。
8月の集いでTaさんが発表された奈良市福智院の地蔵菩薩坐像について、資料をいくつか確認しました。(下記)
国華1384号「地蔵菩薩坐像」水野敬三郎
日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代造像銘記編 7No.210福智院地蔵菩薩像(解説水野敬三郎)
田辺三郎助彫刻史論集「鎌倉彫刻の特質とその展開」(国華1000 昭和52.5より再録)
 
Taさんの配布資料P46にかけて水野先生の御一行が来て調査されたと書かれていますが、上記の国華1384と日本彫刻史基礎資料集成で大体の状況が分かります。まず、この調査は平成20.1.111220.6.132回行われ、その結果により日本彫刻史基礎資料集成のNo.210福智院地蔵菩薩像解説が執筆されたこと、1月の調査は西川杏太郎、田辺三郎助、水野敬三郎、有賀祥隆、浅井和春、副島弘道、山本勉、岩佐光晴、根立研介、武笠朗、長岡龍作、奥健夫、川瀬由照、瀬谷貴之、その他数名、6月の調査は水野敬三郎、熊田由美子の2名となっています。
 
像の製作年代と作者についての結論は、
1)「建仁三年(1203)に勧進を始めて建長六年(1254)に完成した」という説と「建仁三年(1203)に作り始めて間もなく完成した」という説の2通りの説があったが、上記の調査の結果から水野先生は「建仁三年に福智庄(現奈良市下狭川町)で作り始めて間もなく完成し、建長六年に現在地へ移動した。その際修理が行われ光背化仏が善円一派により作られた。」と結論付けている。
2)Taさんの配布資料P5では、お寺の人の話として「康慶作?」という推測のことが載っているが、水野先生の国華1384号では衣の形などが同形式の慶派地蔵菩薩として康慶作静岡瑞林寺、奈良長谷寺、推定運慶作六波羅蜜寺、康清作東大寺念仏堂の像を上げている。(この他に衣の形式が違う慶派の作例があったことの例として願成就院の政子地蔵を上げている。)康慶は建久七年(1196)の東大寺大仏殿虚空像菩薩・四天王(増長天分担)の後、記録に出てこなくなり、間もなく没したと思われているので、建仁三年(1203)の福智院の地蔵菩薩の作者とはなりえない。(同じ1203年の南大門金剛力士を運慶が主宰していることからも分かる。)お寺の人が「康慶作?」ということを言われたのは、同形式の地蔵菩薩として瑞林寺の像が話題に乗ったためだと思われます。
3)作者について水野先生は、「福智院像の作り始めが建仁三年六月二十七日、南大門金剛力士像の作り始めが一ヶ月後の七月二十四日なので、同一仏師が両像に関わるのは無理」としている。つまり金剛力士の大仏師、運慶・快慶・定覚・湛慶以外の慶派の仏師が福智院像の作者ということになる。(水野氏は日本彫刻史基礎資料集成解説では作者を慶派仏師とすることを否定していたが、後に出した国華1384号ではこれを撤回し、慶派仏師作としている。)
4)昭和52年の田辺三郎助氏「鎌倉彫刻の特質とその展開」では、製作年代は建仁・建長の早い頃としながら、作者は善円・善慶の周辺や同じ建仁の頃の巨像である興福寺の薬王薬上に近い、田舎臭さや土着性を感じるとしている。
 
なお、日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代造像銘記編は、製作年代順に記載されていますが、この福智院地蔵菩薩は建長六年のところ(第7巻)に集録されており、建仁三年頃の南大門金剛力士興福寺薬王・薬上菩薩の集録されている第1巻~2巻には載っていません。基礎的データを提供するというこの本の性格上、銘文に建仁三年と建長六年の両方の記載があったら、後の方の年号を完成時期として、そこに集録するということだと思います。(明らかに後の時代に書かれたと判断できる場合は別ですが。)私が思うに、この本の第1巻~2巻を編集した当時(平成15年頃)はまだ平成20年の福智院地蔵菩薩の調査の前だったので、多くの研究者は建長六年完成と思っていたのではないでしょうか。そして、調査により建仁三年作り始め(そして間もなく完成)ということが認識されるようになったが、この本では建長六年のところの第7巻に集録したということです。私もこの第7巻(コピー)は以前から持っていましたが、建長六年のところに集録されていたので、福智院地蔵菩薩のことは注意していませんでした。第2巻の建仁三年のところに最初から出ていたらもっと注目していたと思います。
 
以上です。Taさんを始め、多くの方のコメント・感想をお待ちしております。