孤思庵の仏像ブログ

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東京藝術大学大学院 美術研究科 文化財保存学保存修復彫刻研究室の研究報告発表展 を見学して

以前の日記に書きました、東京藝術大学大学院 美術研究科 文化財保存学保存修復彫刻研究室の研究報告発表展に土曜日と日曜日の連続で行ってきました。http://www.tokyogeidai-hozon.com/news/news2013/0426/2013_5.jpg

場所が藝大で無く都心の会場だった頃からでもう4回ほどの見学になります。大きく分けますと仏像の修復と研究の為の摸刻が中心でして、例年大きな相違は在りません。しかし何時も新たな発見につながります。今回は特に摸刻の発表に注目しました。過日のEテレのETV特集「仏像の魂に挑む~東京藝術大学 若者たちの一年~」でも取り上げていましたので、今回は特に摸刻の発表に注目しました。
 
此処での模刻は、秀作の仏像をそのままに再現する模刻をもって、造仏の制作技法の技と心を探り学び、仏像修復の技と心を勉強するものです。私達仏像愛好家が仏像鑑賞をする時にも漠然と見ないで、技法なり、作者の心なりを読み取ろうとします。それを私は仏像鑑賞では無しに「読像」と造語したいです。そのもっと極み、究極が摸刻ではないでしょうか。
写し取る時に観方は精緻となり、よく読もうとします。書道でも臨書、絵画でも模写は、重要な勉強手段です。その作品を最も理解する方法でしょう。
 
今回はETV特集「仏像の魂に挑む~東京藝術大学 若者たちの一年~」で取り上げた2件の発表展示の模刻作品が展示されていました。
番組でも中心的に扱われていた中村恒克さん(修士2回)の国宝 道明寺十一面観音立像の摸刻に注視しました。
 
 
先のETV特集の番組が摸刻見学に大いに役立ったは言うまでも無いが、土曜日の会場で 質問攻勢に、対応に彫刻の講師クラスの教員が当ってくれました。
 
先ず、割り首技法は知っていますが、この作品には割り足技法がありました。(割り足技法:足首の裏側や、裳の裏側を彫る為に一旦足を割り離し、彫刻した後、矧ぎ寄せる技法。平安末期から鎌倉時代にかけての短い期間の像に見かける技法です。)今まで知らない事でして興味深かったです。古い道明寺十一面観音立像の解説にはヒノキの一木つくりとあるが近年用材の研究が進み、幾多の像が榧(カヤ)が用材と改められ、この像も榧との事。
 
仏像修復時の場合には楠や榧の仏像に対しても修復部分は必ずヒノキで補作するの知ってって居るが、ここは摸刻ゆえに、本像と同じ榧材を使うと・・・話は木材の巻相に及び、木材は自然乾燥よりも、貯木場(汽水域での淡水と海水の混じったものが良い)に2年ほど潅水貯木して、その後引き上げ乾燥さすと、脂(ヤニ)が抜けて乾燥がはやく進むとの事、相した方が干割れが少ないとの事でした。
 
その他 見当の錐孔は場所の目印だけではなく孔の深さを決めておくことにより、削る厚さの見当にするとの事、これも新しい知識と成りました。
 
他にも蓮華座の中間層にあるを蘂と断定し、古くは見られないとの発言に、鳳凰堂の定朝阿弥陀坐像にも在ると言われました。一字その蘂に関心を持ち何度と無くその蓮華座を観たつまりでしたが、見えてませんでした。その発言に返り写真を見直すと何と目立たない八角の蘂があるではないですか!他のも誰に聞いても知らないと言われる事の多い引懸図もご存知で、敬服しました。カルチャーセンターや大学のオープン講座を受講して、その講師に僅かの質問の機会を得るより、此処で質問した方が、良く教えてもらえるの感を持ちました。他にも何やかやと30分ほど教えていただきました。周囲に何人かの見学者の人垣が出来ていました。
 
 
二日目の訪問でも、質問攻めに、道明寺十一面観音立像の摸刻者の中村恒克さん(修士2回)が説明してくれました。苦労は余りされませんでしたので、隣にある薬師寺東京別院依頼の創作脇侍像が寄木造りでしたので、その接ぎ部分は白木の段階では木目を読むと解かる事、何とたくさん接いでいるかが解り、効率を求めた仏像彫刻方であるかが判り、」一木つくりの拘りと苦労がわかるを変わりに説明させてもらった。これで意気投合したわけでもなかろうが、EテレのETV特集「仏像の魂に挑む~東京藝術大学 若者たちの一年~」では語られない事を応えてもらった。先ず彫刻用材は自分負担、で今回の榧材は碁盤将棋盤向けにカットされたものが多い中での調達に苦労したとの事でした。
 
次第に打ち解け、世話な興味にも応えてくれました。楠材の代価は30万円と意外に安いのでビックリしました。代金は製作者の個人負担、この像は藝大美術館買い上げが決まり、ほぼ用材等の原価に匹敵ほどでしかないとの事でした。因みに作品の中でのコンテストがあり、東京藝術大学最優秀作品に「お仏壇のはせがわ賞」を授与されていて、美術館の買い上げ額断然多いと正直答えてくれました。彼も30分以上も質疑応答や説明をしてくれました。
 
天衣だけが本作と相違に気付き聞きますと、 天衣部分は後代の補作ですので意匠が異なる。そこで像の時代に合わせた天衣の形で制作したとのことでした。一木掘り出しでないのは頭上面だけだそうです頭上面は差込と取り外して見せてくれました。(頂上仏面は珍しい上半身つきで一木からの彫り出し)。他の方の暴悪大笑面はどんな?との質問には楠材の後補のだそうです。やはり模刻すると色々この像の事覚えるようです。
摸刻に当たり材料も木取も本像に忠実を心がけたそうです。木芯が蓮肉上に観られ解かります。彼の説明によりますと干割れまでもが同じような所に同じように現れたそうです。実に興味深いです。
 
一木造りは失敗が許されず、大変ですねの質問に事故欠損の場合は接着剤もありますと・・・正直すぎます!ですが名誉の為に、冗談と受け取っておきましょう。http://www.tokyogeidai-hozon.com/news/news2013/0110/naka03.jpg
 中村恒克さん(修士2回)の紹介の為の写真を探し、上を貼り付けました。おそらく1月に行われた文化財保存学「終了作品展」での発表のひとコマであろうが、掲載ボードの文面に気が付き驚きました、経典による十一面観音の頭上面の研究発表でありましょう。
会場では彼は彫刻及び美術史の領域の専門と思い込み、図像学的分野の事はとの思い込みにて、図像学的質問に及ぶ事をしなかったですが、此処最近に図像文献による十一面観音の勉強をしている身としては、もっとその方面の話をすれば良かったと後悔仕切りです。藝大修士過程、侮るべからずを思い知りました。
 
 
ここ 東京芸術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室教授の籔内佐斗司氏のEテレ番組 趣味Do楽「彫刻家・藪内佐斗司流 仏像拝観手引」でも道明寺十一面観音立像 摸刻の中村恒克さん(修士2回)は出ていました。 彼のその前の作品は長野県の善光寺陸前高田市の人々が協力し合い、 東京芸大同研究室の何人かで倒木した高田松原の松で震災犠牲の鎮魂を願い、母子地蔵4体を製作、内3体は陸前高田市米崎町にある普門寺に、残る1体は善光寺に安置されてるそうです。http://www.netricoh.com/contents/officelife/touhokuouen2/iwate/images/tochigasawa/tochigasawa_01_11.jpg
陸前高田市内の3体は新たに芸大文化財保存学専攻で造った建造物に納められるそうです(同研究発表にも資料展示ありました)。母子地蔵の大きい方を中村恒克さんが作成し、次いでの一木造りが道明寺像摸刻だそうです。その母子地蔵が両国 回向院での善光寺の出開帳に来ているとの事をここで聞き、日曜の午後は回向院に向かいました。
 
忘れてましたが、昨年白木で展示されていた円成寺の運慶作大日如来坐像の摸刻は、今回製作当初漆金がなされ、まばゆいばかりの像になってまして、その印象の違いに直ぐには同じ像と気付かない程でした。 今の国宝運慶作大日如来坐像が宝物館に移された後の多宝塔に、この摸刻像が納まるそうです。クリックすると新しいウィンドウで開きます
 
最後に日頃鑑賞する仏像、漠然と見ていてはわかりませんが、修復の知識を知ってみると、何処が後補、修理されているなど、だいぶ分かってきます。特に寄木の像などは漆金されてはわからなくなる矧ぎ継ぎは、木目を読めば一目瞭然です。天衣の取り付け方もよくわかります。普段の仏像鑑賞とは相違の、こんな仏像勉強も如何でしょう。
 
2日間で延べ8人の仏像友達と一緒に見学いたしました。お付合い頂き有難うございました。また来年もと今から楽しみです。
 
 
★なお今月の「仏像愛好の集いin東博」は4日(土)開催です。この芸大文化財修復研究発表展のディスカッションも行います。お気軽に参集下さい。