孤思庵の仏像ブログ

少し深くの 仏像愛好のブログ続けてます、オフ会に集ってます、貴方も如何?

10/10 Mさんからの投稿 エイムックの本「運慶・快慶と慶派の美仏」


仏像愛好の集のメンバーMさんからの投稿

エイムックの本「運慶・快慶と慶派の美仏」
 
  
                                                        Image



今日近くの本屋に行ったら、「運慶・快慶と慶派の美仏」(エイムック、10.20.発行、1500円+税)という本がありました。私は書店で売っている一般向けの仏像の本はほとんど買わないのですが、この本は細部の文様の拡大写真が出ていることと解説の多くが美術史の専門家であり、役に立ちそうなので早速買いました。読んでみて面白かったのは、解剖学者が書いた運慶・快慶仏の肉体表現に関する評価です。今東博大報恩寺展に出ている十大弟子迦旃延について、「十大弟子のうち迦旃延だけが肋骨と鎖骨の違いを認識している。迦旃延は立ち姿や佇まいまでも美しい。傑作だと思う」と書かれていました。この評価は美術史家による従来の評価と正反対です。昔毛利久氏は「仏師快慶論」(1961年)の中で迦旃延について「(十大弟子の中でも)作域の冴えないもの」という評価をしていたし、最近でも小学館日本美術全集7「運慶・快慶と中世寺院」(2013年)の作品解説の中で山口隆介氏は「なかには迦旃延のように一具であることを疑問視される像も含まれる」としています。今回のエイムックの解剖学者による評価を読んですぐ思い出したのは、迦旃延を含む「やや怪異な容貌をした4体が運慶一派の作風」であると評価されている(「肥後定慶は宋風か」奥健夫氏2012年)ことと、その中でも迦旃延須菩提2体の対耳輪上脚の角度が前方向へ向く慶派通有の形を取っているということです。すなわち、迦旃延が運慶一派の作風を持っているということと解剖学的に正確な彫り方をしているということが関係しているのではないか、と思った次第です。しかし、この解剖学者の方の文章を更に読んでいくと、運慶が指導したと考えられている東大寺南大門金剛力士吽形では「筋肉の表現が正確な部分とそうでない部分が混在している」とあり、一方、快慶作の舞鶴金剛院深沙大将では「筋肉の奥にある骨格の表現がしっかりしている」と書かれています。運慶と快慶、いったい解剖学的に正確な彫刻を作りえたのはどちらなのか、運慶が立体的、快慶が絵画的というような単純なことではない、一筋縄ではいかない難しさ(面白さ)があると再認識しました。また、今回の解剖学者の方のように、仏教美術や美術史の専門家ではない人による論考というものが研究の突破口となる可能性を持つのではないか、ということも感じました。数年前に運慶願経の共同発願者「女大施主阿古丸」を「運慶の妻と長男湛慶の二人」と評価した歴史研究者がいて、私もそれを読んで「目から鱗」の思いを持ったし、今では「女大施主阿古丸は傀儡師=人形使い」などという説を信じる専門家は誰もいなくなったと思います。仏像彫刻の美術史学者ではない、中世の女性史やジェンダーを研究されている方の論文です。今回の解剖学者の方には是非運慶・快慶とその周辺作品についての筋肉や骨格などについての論文をまとめられた上で、美術史の専門誌に発表していただきたいと思いました。なお、東博大報恩寺展のパンフレットの表は肥後定慶の准胝観音迦旃延の写真です。何故十大弟子の中で最も出来が悪いとされている迦旃延なのか?と疑問に思っていましたが、少しは謎が解けた気がします。


    以上  Mさんからの投稿