国宝や重要文化財の仏像を中心に、飛鳥時代から鎌倉時代の仏教彫刻など35点を紹介する文化庁主催海外展「日本仏像展」が29日から9月4日まで、イタリア・ローマのクイリナーレ宮美術館で開かれる。同国での文化庁による日本古美術展開催は21年ぶり。伊美術界では仏像への関心が高まっており、より深い文化交流が期待されている。
 6〜7世紀に日本に伝わった仏教彫刻は、針葉樹の美しい木目を生かすなど独自の発展を遂げ、鎌倉時代にはリアルで力強い彫刻が生み出された。展示される仏像は、関東を代表する白鳳時代の金銅仏である東京・深大寺重要文化財「釈迦如来(しゃかにょらい)像」のほかは木彫となる。
 高知・雪蹊寺(せっけいじ)の重要文化財毘沙門天(びしゃもんてん)像」は鎌倉時代の仏師、湛慶(たんけい)の作。湛慶は、運慶の写実表現に洗練を加えて“鎌倉彫刻のスタンダード”を完成させた。奈良・元興寺の国宝「薬師如来像」(平安時代)は日本を代表する一木(いちぼく)彫像の一つ。木肌を生かした彫りに特徴がある。
 文化庁が日本の古美術展をイタリアで開催するのは平成7年度の「信仰と美−日本美術4000年の歴史を辿(たど)る」以来。奥健夫・主任文化財調査官は「木の文化を発達させてきた中で、仏像にも木の特性を生かした豊かな表現が生まれた。通史的展示ではなく仏像に絞ることで、より深く理解してもらえれば」と話している。
 今回の展示は、26年の日伊首脳会談で、28年の日伊外交関係開設150周年を契機に文化や人的交流を拡大するとした合意の一環。会場となる美術館は大統領官邸の一角にあり、展覧会の開会式に伊大統領が出席することで知られる。
 古い仏像は輸送時や展示先での湿度管理などに細心の注意が求められるため、国宝・重文級が海外で展示されるのはまれ。今回は準備期間が2年と短く、国立文化財機構文化庁の所蔵品を中心に構成された。重要文化財「伎楽(ぎがく)面」(奈良時代)など普段は倉庫で眠る貴重な文化財も出品され、日本人にも興味深い。
 関係者によると、伊美術界では近年、日本の仏像の芸術性に対する関心が高まり、千年以上前の仏像が寺院などで継承されている事実が驚きを持って受け止められている。伊側は土を材料とする奈良時代の塑像(そぞう)も希望したが、輸送に耐えられないとして見送られた。
 文化外交に詳しい田中英道・東北大名誉教授は「美術大国イタリアで、湛慶は大芸術家として評価されるだろう。仏師をルネサンスの彫刻家と比較する解説も行われるようだ。日本文化はこれまで『わびさび』『禅』といった西洋にない部分を補うものとみられていたが、相並ぶ文化と捉え直される好機となる」と話している。(寺田理恵)